はじめに
生成AIを使っていますか、と聞くと、多くの会社が「使っています」と答えます。
文章のたたき台を作らせる。メールの下書きを書かせる。議事録を要約させる。たしかに便利です。時間も浮きます。
でも、そこで止まっている会社がとても多い。そして止まっている理由は、能力でも予算でもなく、「その先があると知らないから」だと思っています。
今日はその話を書きます。
第1段階:AIに、考えさせる/書かせる
いちばん入りやすいところです。ChatGPTやGeminiに聞いて、たたき台を作ってもらう。
- 提案書の構成を出してもらう
- 断りのメールの文面を考えてもらう
- 長い資料を要約してもらう
これは十分に価値があります。ゼロから書く時間がなくなるので、確実に速くなる。
ただ、この段階の特徴は、毎回、人が使いに行っていることです。AIは待っています。人が開いて、打ち込んで、結果を受け取る。人が動かないと、何も起きません。
だから、浮くのは「一回あたりの時間」だけです。仕事の流れそのものは、変わっていません。
第2段階:自分の環境の中で、動くものを作る
ここが、多くの会社が飛ばしてしまう段階です。
AIに文章を書かせるのではなく、AIの助けを借りて、自分の環境で動くものを作る。
私が最初に作ったのは、こういうものでした。
Webサイトの内容を拾ってきて、スプレッドシートに記録する
それだけです。壮大なシステムではありません。GAS(ガス)というもので書きました。
GASは Google Apps Script の略で、スプレッドシートやGmailを自動で動かすための仕組みです。名前は難しそうですが、正体はこういうものです。
- Googleアカウントがあれば、追加費用なしで使える(すでに入っている)
- スプレッドシートのメニューから開ける。インストールも申請も要らない
- 「毎朝8時に実行」のような予約ができる。パソコンを開いていなくても動く
要は、Excelのマクロのようなものだと思ってください。それがGoogleのサービス全体(メール、カレンダー、フォーム、スプレッドシート)に対して使える、というイメージです。
大事なのは、作り方です。私はプログラムに詳しいわけではありません。
やったことは、こうです。
- 「こういうことをしたい」と、生成AIに相談した
- 出てきたものを動かしてみた
- 詰まったところを、また生成AIに相談した
- それを繰り返して、動くところまで持っていった
つまり、第1段階のAIを使って、第2段階に登ったということです。第1段階は無駄ではありません。使い道を「文章を書かせる」から「作るのを手伝わせる」に変えると、階段になります。
「うちはGoogleじゃない」という場合
GASの話をすると、「うちはMicrosoftなので」と言われることがあります。同じことは、たいていの環境でできます。
- Power Automate:Microsoftに標準でついている自動化の道具です。「メールが届いたら」「ファイルが追加されたら」をきっかけに、次の動作をつなげられます。画面上で部品を並べる形なので、文字を書かなくても組めます
- Excelのマクロ(VBA):昔からあるものですが、いまも現役です。Excel作業の自動化なら、これで足りることも多い
選び方は単純です。いま会社で使っているものに、最初から付いているものを選ぶ。
新しく契約すると、稟議が要る、管理者に頼む、費用の説明が要る——それだけで止まります。すでに使えるものなら、今日から触れます。
道具はどれでも構いません。大事なのは「AIに相談しながら、動くものを1つ作る」という経験のほうです。 ここで得た手触りは、道具が変わっても持ち運べます。
そして、この段階を通ると、決定的に変わることがあります。手触りを持てることです。
何ができて、何ができないか。どこが大変で、どこは簡単か。触っていない人には、この感覚がありません。
第3段階:外のシステムと、つながると分かる
私が「あ、これ自分でもできるな」と思った瞬間は、ここでした。
自分が作ったものを、別の管理システムとつなげられると分かったんです。
これが分かった瞬間に、絵が一気に描けるようになりました。たとえば、こういう流れです。
- お客様からメールが来る(これが引き金になる)
- 別の管理システムを見に行って、その方の状況を確認する
- 内容を判定して、返す内容を用意する
- 最後に、人が確認して送る
これ、それぞれの部品は難しくありません。でも、つながると分かっていないと、この絵は描けないんです。メールはメール、管理システムは管理システム、と別々のものに見えているうちは、思いつきもしない。
そして重要なのは、第2段階を通っていたから、第3段階が分かったということです。
GASで作った手触りがあったから、「外とつながる」の意味が実感として理解できた。触っていなかったら、同じことを聞いても素通りしていたと思います。
なぜ、多くの会社は第1段階で止まるのか
理由は3つあると思っています。
① そもそも発想がない。 その先があると知らない。AIは文章を書く道具だ、という理解のまま止まっている。
② できるかもしれないが、やり方が分からない。 方向は見えている。でも、最初の一歩が分からないまま時間が過ぎている。
③ 昔の記憶で判断している。 この手の仕組みは、かつては技術者や開発会社に頼むものでした。見積もりを取って、要件を出して、それなりの金額をかけて作る。その記憶があるから、「うちには無理だ」と最初から外してしまう。
③が、いちばん根深いと感じます。判断の材料が、何年も前のまま更新されていない。
私も同じでした。手を動かしてみたら、思っていたよりずっと手前に線がありました。
何から手をつけるか
第2段階に上がるための、いちばん小さい一歩を書きます。
作るものは、これくらいの規模でいい
私が最初に作ったのは「Webの内容を拾ってスプレッドシートに記録する」でした。この規模でいいんです。むしろ、これくらいでないと最後まで届きません。
たとえば、こんなものです。
- 毎朝、特定のメールを拾ってシートに一覧化する
- 定期的にあるページを見に行って、変化があったら記録する
- 提出物の締切が近い人に、自動でリマインドを送る
業務が劇的に変わるものを最初に選ばない。動くところまで到達することが目的だからです。
そして、プロンプトはこれで足ります
難しく考える必要はありません。生成AIに、こう書いて渡せばいい。
【作りたいもの】
毎朝、Gmailに届く「注文確認」のメールを自動で拾って、
スプレッドシートに一覧として記録したい。
【いま困っていること】
手作業で1件ずつ転記していて、毎朝30分かかっている。
転記ミスも時々起きている。
【こうなれば使いやすいと思う】
日付・送信元・件名・金額が、1行ずつ並んでいる状態。
既に記録した分は、二重に登録されないようにしたい。
【環境】
Google Workspace を使っている。プログラムの知識はない。
この環境で作れる方法を、手順を最初から教えてほしい。
この3つが書いてあれば十分です。
- 作りたいもの
- いま何が問題なのか
- こうなれば使いやすくなると思う
きれいな要件定義書は要りません。むしろ、問題と希望を素直に書くほうが、いいものが返ってきます。 詰まったら、エラーの文言をそのまま貼って「これが出ました」と聞けばいい。
【環境】のところは、自社のものに書き換えてください。「Office 365を使っている」「kintoneを使っている」でも構いません。その環境でできる方法を、AIの側が選んでくれます。
まとめ
生成AIで文章を書かせているのは、第1段階です。悪いことではありません。ただ、そこには「一回あたりの時間が浮く」以上のものはありません。
第2段階は、自分の環境で動くものを作ること。ここは、生成AIに相談しながらで十分たどり着けます。
第3段階は、それが外のシステムとつながると分かること。ここまで来ると、仕事の流れそのものを設計できるようになります。
そして第3段階は、第2段階を飛ばしてはたどり着けません。 触っていないと、つながることの意味が分からないからです。
小さくていいので、一つ作ってみてください。Webの内容をシートに記録する、それくらいで十分です。線は、思っているより手前にあります。
どこから作り始めるか、何が自社に向いているか。整理の段階からでも構いません。お気軽にご相談ください。


