はじめに
「先月の注文、どうなってますか」 「この請求、何の分でしたっけ」 「契約はいつまででしたか」
お客様から、こういうメールが届きます。どれも、その場では答えられません。調べてから返す仕事です。
この仕事の一部を、いま機械と生成AIに寄せています。やってみて分かったのは、これがコストカットの話ではなかった、ということでした。
事務の負担が減っただけでなく、営業が動きやすくなった。 この2つが、同じ一つの仕組みから出てきたんです。
今日はその話を書きます。
1. 時間を食っているのは「返すこと」ではない
問い合わせ対応というと、返信文を書く仕事だと思われがちです。だから「テンプレートを用意すれば早くなる」という発想になる。
でも、実際の作業を分解すると、こうなっています。
「先月の注文、どうなってますか」というメールが1通届いたとき——
- 販売管理システムを開いて、その会社を検索する
- 注文番号を控えて、出荷の記録を見に行く
- 出荷済みだったので、伝票番号を確認する
- メールに戻って、3行の返事を書く
1〜3で10分、4は2分。 これが実感に近いはずです。
時間がかかっているのは、返すことではなく、確認しに行くことです。
だから、ここを自動化しようとして「よくある質問botを置きましょう」となっても、あまり効きません。定型文を返すだけのbotは、「先月の注文どうなってますか」に答えられないからです。その人の注文を見に行かないと、答えが決まらない。
手を入れる場所は、返信文ではありません。「見に行く」ところです。
具体的に言うと、こういうことです。
いまは、人がシステムを開いて、目で探しています。これを、機械が同じ情報を取ってこられる状態にする。
- 会社名から、その会社の注文一覧が引ける
- 注文番号から、いまの状態(出荷済み・準備中)が引ける
- 請求書の番号から、中身の明細が引ける
この3つができれば、あとは自動でつながります。メールが届いた瞬間に機械が調べて、「先月のご注文は5日に出荷済みです。伝票番号は◯◯です」という下書きまで作ってくれる。
人がやるのは、それを読んで送るかどうか決めることだけになります。
2. 何を機械に渡し、何を人が持つか
全部を渡す話ではありません。ここの線引きが要ります。
見分け方は単純です。いま、マニュアルどおりに処理できているか。 マニュアルで回っているなら、渡せる可能性が高い。「その都度、担当者が考えている」なら、まだ人が持つべきところです。
進捗や請求の問い合わせは、クレームにつながりやすい領域でもあります。お客様は気にしている。だからこそ、正しく、早く返してあげたい。ここが自動で返せるようになると、効き方が大きい。
3. 事務を減らすと、なぜ営業の話になるのか
ここからが、私が一番おもしろいと思っているところです。
問い合わせを機械に通すようになると、通した記録が残ります。 誰から、いつ、何について来たか。人が手で処理していたときは、対応した本人の頭の中にしかなかったものです。
この記録がたまると、それまで見えなかったものが見えてきます。
- A社からは、先月だけで12件。ほとんどが「納期どうなってる?」
- B社は、半年間ずっと問い合わせゼロ
- 「請求の中身が分からない」という質問が、全体の3割を占めている
ここから読めることがあります。
A社は、納期に不安を持っている。 このままだと取引を見直されるかもしれない。営業が一度、話を聞きに行ったほうがいい。
B社は、うまくいっているのか、それとも離れかけているのか。 問い合わせが来ないのは、良い兆候とは限りません。
請求の質問が3割なら、請求書の書き方に問題がある。 問い合わせを減らすより、請求書を直したほうが早い。
これは、問い合わせ対応の話ではありません。営業が次に何をすべきか、という話です。
大事なのは、営業が自分で集計しなくていいということです。営業は忙しい。「A社からの問い合わせを数えておいてください」と頼んでも、続きません。
でも、問い合わせを機械に通していれば、集計は勝手にたまります。あとは月に一度、それを営業に渡すだけです。
効率化のつもりで始めたことが、営業の材料を吐き出しはじめる。この構造は、やってみるまで分かっていませんでした。
平たく言えばコストカットです。でも、狙いは利益の確保です。減らした分をどこに戻すかまで設計すると、守りの投資が攻めに変わります。
4. なぜ、多くの会社は手をつけられないのか
聞けば「たしかにそうだよね」という話だと思います。でも、実際にやっている中小企業はほとんど見ません。
理由は、3つあると思っています。
① そもそも発想がない。 そんなことができると思っていない。問い合わせ対応は人がやるもの、という前提が動いていない。
② できるかもしれないけれど、やり方が分からない。 方向は見えている。でも最初の一歩が分からないまま止まっている。
③ 昔の記憶で止まっている。 この手の仕組みは、かつては技術者や開発会社に頼むものでした。見積もりを取って、要件を出して、何百万円かけて作る。その記憶があるから「うちには無理だ」となる。
③が、一番根深いと感じます。判断の材料が、10年前のままなんです。
手を動かしてみると、思っていたより手前に線がありました。できる範囲は、判断していたときより広かったというのが、やってみての実感です。
5. 何から手をつけるか
いきなりAIを触るところから始めない、というのが私の考えです。
ステップ1:先月の問い合わせを、正の字で数える
受信トレイをさかのぼって、種類ごとに数えるだけです。注文について何件、請求について何件、契約について何件。
紙に正の字を書く、それで十分です。1時間もあれば終わります。これをやると、だいたい「請求の質問がやたら多い」のように、偏りが見えます。
ステップ2:一番多い種類について、自分の手順を書き出す
「請求の質問が来たとき、自分は何をしているか」を、順番に書きます。
①メールを読む → ②会計ソフトを開く → ③会社名で検索 → ④請求書を開く → ⑤明細を見る → ⑥返事を書く
これが自動化の設計図になります。②〜⑤が、機械に渡す部分です。
ステップ3:②〜⑤を、機械が通れるようにする
ここが一番地味で、一番時間がかかります。会計ソフトから請求データを取り出せるか、取り出せないなら別の形(スプレッドシートに毎日書き出す、など)で用意できるか。
順番を守ってください。ここができていないのに返信の自動化を作っても、答えの中身が空っぽになります。
ステップ4:一種類だけ、機械に渡してみる
全部やろうとしない。マニュアルで回っている一種類だけ、渡してみる。回りはじめてから、次を足していく。
順番が大事です。ツールを選ぶのは、この後でいい。
正直に、この仕組みで大変なところ
基盤を整えるところに、最初は時間がかかります。
情報が引ける状態を作るまでが本番です。ここを軽く見ると、途中で止まります。逆に言えば、ここさえ越えれば回りはじめます。
そして、この先にもう一段あります。お客様の状態そのものを見にいく段階です。
利用状況が取れるサービスなら、どれくらい使われているかが分かります。一般的な商売でも、お客様との接点が何回あったかは取れます。そこから「満足しているか」「離れそうか」まで見に行ける。
契約が続くかどうかを決めるのは、結局、出した成果物の質と、接点の数と、製品そのものの力です。そのうち「接点」にあたる部分は、しくみで管理できます。
ここまで来ると、問い合わせ対応の話ではなくなります。お客様との関係を、勘ではなく記録で見る話になる。私はそちらのほうが本丸だと思っています。
まとめ
問い合わせ対応の自動化は、返信文を書く手間をなくす話ではありません。調べに行く手間をなくす話です。
そして調べる作業を機械に通すと、記録がたまります。どの会社が何を気にしているかが見えて、営業が次に動く先が分かる。事務の負担が減ることと、営業の材料が増えることが、同じ一つの流れの中で起きます。
思っていたより、手前に線はあります。技術者に頼まないと無理だった時代の記憶で判断を止めてしまうのが、いちばんもったいない。
まずは先月の受信トレイをさかのぼって、問い合わせを種類ごとに数えてみてください。紙と鉛筆で足ります。 そこが出発点です。
自社のどこから手をつけられそうか、整理だけしたいという段階でも構いません。お気軽にご相談ください。


